★★★相州乱波の勝手放談 ★★★
#24 《築・城・記? その4》名古屋城 作事編
 




前回までの復習(?)
子供の頃の記憶を呼び覚まし、ある日唐突に名古屋城の
プラモデルを作り始めてしまったかすこば。“大人買い”ならぬ
“大人作り”で模型工作に打ち込んだ拙者は、絶対に手抜きはせず
120%本気モードで精密模型を完成させるべく作業に打ち込む。
しかしやる事が次々と増えていくばかりで…(壊滅)




不開(あかず)門に隣接する多聞櫓(糒多聞)に続いては
小天守南側に連なる多聞櫓(具足多聞)に手を付けようと考えたのですが…。
参考資料として、まずこの古写真を見た所から話は始まります!
具足多聞が写った貴重な古写真小天守〜具足多聞部分の模式図
名古屋城本丸の多聞櫓(糒多聞・具足多聞共に)は濃尾大地震で甚大な被害を受けた為
明治24年頃、撤去されてしまいます。比較的古写真の多く残る名古屋城ですが、
大半は昭和になってから撮影された物であるため、多聞櫓まで写りこんでいるのは稀。
中でもこの写真は、具足多聞の北西側が確認できる貴重なものですが、
よく見れば、小天守と連結する壁面(これが写っているのは恐らく唯一かと?)が
左右に分割され、2段の段差を構成しているのが分かります。それに合わせて
石垣も2段だし、具足多聞もその高さで設置されているようです。
という事なので、造型もそれに近づける訳ですが…。
壁面を加工仮組みですが
具足多聞もパーツ通り作るとL字型の構造になるんですが、古写真のように
それは誤りですので、部材を加工して直線のみの形に改造。そこで余剰になった
壁のパーツを切断し、連結壁面の段差を作り上げます。その上に乗せる屋根は
糒多聞の屋根部品を焼き切った残りの部分(前頁を見てねw)で合成。
とりあえず、ここまでの段階で仮組みしてみると右写真のようになりました。
石垣を嵩増しまた塗り直し
続いて石垣部分を嵩増し。プラ板を細長い帯状に切り取り、石垣最上部に
貼り付け、さらに法面を一体化させるように形状を整えます。
これまた木工用ボンドが大活躍(ボンド最強!)
それが乾いて固定したら、改めてその部分を石垣として塗り直します。
あぁ、また普請に逆戻りや…(苦笑)
外側はOKですが内側も修正しないと
斯くして外側(石垣)の修正は完了。ですが当然、内側(土塁)も
高さ調整が必要になる訳でして、今度はそれにひとしきり時間を盗られます (^ ^;
壁面左右の段差が生じている部分、その土台になる土塁も
外側と同じだけの嵩増しを行わないといけないので…
土塁の間仕切りこのサイズの部品です
土塁が段を構成する場所に小石垣があったという感じにして
その部分に差し込む部品を、またもやプラ板で自作。
ちなみにサイズを確認しやすいように撮ったのが右の写真。
CDの盤面に置いてみたところでして、部品の左にある丸い円が
CD盤のセンターホール、直径約1cmといった大きさです。
で、土塁を埋め増していく訳なんですが…法面が窄まっていく状態で
高さを増やした場合、今度は多聞櫓を設置する底面積が小さくなる。
という事は、単に嵩増ししただけでは、逆に多聞櫓が少しばかり
“宙に浮く”状態になってしまう訳です。いや、むしろ多聞櫓の内側に
武者走りとなる余剰面積を用意するくらいでないといけないので
土塁そのものを分厚く芝や土も入れて
高さだけでなく、土塁の厚みも増すようにして大型化。
ただ、やたらに大きくすると今度は小天守との間が埋まってしまうので
丁度良い傾斜角やサイズに納めるのがなかなか大変。
全部パテ(代わりのボンドw)で埋めるのは無理なので、中に調整材として
数本の丸太(という名の爪楊枝w)を仕込んでおきました(笑)
ついでに、土塁を上がる為の階段も自作(史実に基づく位置です)
斜め方向に上がる階段を立体造型に組み込むのはかなり難儀でしたが
そこに土や芝を葺きなおすと、このような形に!
控え柱も立てて屋根も葺きます
これに関する史料は見当たらないんですけど、壁の裏面には必ず
控え柱が建っているのが当然なので、その情景を想定してパーツを自作。
不開門に倣って、石柱にしてみました。そして最後に屋根を被せれば
具足多聞周りの創作は完了いたします! (^ー゚)b あー長かったw



さて、あと残すはいよいよ大小天守のみ。ここまでのところ、壁パーツにおいて
漆喰の塗装→内壁の塗装→窓の格子設置 という下準備ばかりを続けてきましたが…。
再建天守の最上階古天守の最上階
戦災後に再建された現在の名古屋城天守と、古写真で見る旧来の天守を比べると
最上階の長押(なげし、壁面に浮き出した柱の装飾)や飾り金具が全然違う。古天守の方が
長押がクッキリと浮き出しているし、飾り金具も一回り大きく見える感じ。
なので、大小天守の最上階パーツをスジ彫り&墨入れで長押を強調するようにし
飾り金具もハッキリした大きさで(ちょっとオーバー気味に)色を注します。
塗装前塗装後
さぁ、かなりの手間暇をかけて下拵えを続けてきました―――が…



まだもう一つ、下準備があるのよコレが(爆)


えー、これ以上何があるっていうのさ?という感じですがね。
窓周り、詳しく観察してみますと…
古天守の窓周り
雨樋の模式図
天守古写真から窓周りを拡大。
各窓の下端部に2本の筋が入っているのに
お気付き頂けますでしょうか?
これ、外側から雨戸に吹き付ける雨水を
排出する為の樋。普通の城では、
窓枠の下側にストロー状の鉄管を
突き出しているんですけど…
↓通常の排水管の場合(模式図) 写真は姫路城井郭櫓での実例
排水管の模式図/姫路城井郭櫓での実例
徳川将軍家の権威を示す為に
築かれた名古屋城は、総てにおいて
極上の部材・工法を用いているので
雨樋も、不恰好な鉄管をむき出しに
するのではなく、こうした箱状の樋を
綺麗に窓枠へ組み込んでいます。
この工法、名古屋城大小天守のみに
使われている特別なものです。
ここまで来たら、こういう構造も再現しないと気が済まない。
(一度気になっちゃうと、放置できないんですよねー)
そこでこの雨樋を表現するにはどうすれば良いかとひとしきり悩む事に。
さすがにこれを作るとなると、ミリ単位以下での作業になるので
本物と同じような切れ込みを入れるのは無理だし、
塗色するのも、曲ったり太さが不均等になったり、或いは窓の横枠まで
はみ出して塗ってしまいそうな気がするので却下。それ以外の方法で
細かい筋状の風合いを出すとなると………デカールか? Σ( ̄◇ ̄;

※デカール
プラモデルに詳しくない方へご説明。デカールとは、飛行機や戦車など
実在するメカ類を模型にした際、例えば戦車のマーキングとか車体番号
はたまた、飛行機の機体に書き込まれた部隊章や注意書きなど
およそ「手描きでは描けない」ような細かい彩色・文言を
印刷によって作成したシールのようなシートを貼り付ける事で
表現する方法(もしくは、そのシートそのものの事を指す)です。
普通のシールと違う点は、シートの裏面に糊が付いているのではなく
デカール自体を水に浮かべてプラモデルに密着・乾燥させると
固着するようになっている事。
戦闘機用のデカール実際の戦闘機
戦闘機プラモデルのデカール(左)と実際の戦闘機のデザイン(右)
こんな感じで、飛行機とか戦車って色々細かく
機体に注意書きとかマーキングが入っているんですが
この小ささとか、絵柄の複雑さとかを手描きでは再現できないんで
デカールを貼り付ける事で実現するワケです。

ってな訳で、デカールを自作! まぁ、実際にやる作業としては
透明なステッカーシートを黒く塗り潰し、それを雨樋のスケールサイズと
同じ細さに切断し、こまかく窓枠に貼り付けていくという感じ。
デカール自作します!窓枠に貼り付けます
よもや城プラモでデカールのお世話になるとは思わなんだ(爆)
さらにこのまま大天守最上層の窓の改造も行います。上に掲げた古写真の通り
古建築では最上層の窓が戸袋に仕切られており、小ぶりな口を開けているんですが
昭和再建天守では巨大なガラス張りの窓になった為、何とも大口を開きっ放しの状態。
キットもこの再建天守と同じ形状のパーツになっているので、
戸袋を作って“締まりのある上品な口”に仕立て直します。
右上の写真と見比べて下さい
小天守入口 改造前小天守入口 改造後
その他、小天守入口部分を鉄板扉になるよう改造したり
現在、エレベーターが接続している部分がキットでは潰されてしまっているので
これも窓があった形状に戻すよう、型取りを施したり。そこまでやって、
ようやく大小天守の壁パーツが仕上がった訳です。


これで組み上げられ…る訳ではありません。
「まだ何かあるのかよ!」と思われた方、お忘れではないですか?
名古屋城天守の特徴的な装飾、破風が残っています!
これまた勿論、手を抜く訳には行かないのでミッチりと (^-^)
“ちゃん”の色を想定塗ってみたところ
宝暦改修後(の名古屋城天守を目指して鋭意製作中な訳です)の大天守は
屋根を銅瓦(前頁を参照)に替えたと同時に、破風の壁面に
“ちゃん”と呼ばれる防腐剤を塗ったとされています。
まぁ、それを塗った直後のカラー写真がある訳でもないので
実際に“ちゃん”がどういう色だったのかまでは良く分からんのですが
緑青(これも前頁を参照)と同系列の色で、ちょっとメタリックな感じだったのでは
ないかと勝手に想定し、色を配合してみました(左写真)。で、それを塗ったのが
右写真の状態。左2個の破風パーツが塗色後のもので、右2個は未塗装。
色合いに相違が出ているのはお分かり頂けますよね?



さて、その破風にこそ今回の制作における
最大の「こだわり」が施されるのですが…
驚愕の部材が登場する次回を待て!(笑)




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