★★★相州乱波の勝手放談 ★★★
#28 歴史教訓を活かせない(?!)ブルトレ全廃
 




この稿を記している2015年8月、いわゆる“ブルートレイン”として運行している
最後の寝台特急「北斗星」が最終運行を迎える。同様に、豪華寝台列車として
名を馳せた「カシオペア」も、来月の運行を以って廃止となる公算になった。
「北斗星」は青函トンネルが開通した時点の昭和63年から登場し、一時期は
3往復が設定(+多客時季には臨時列車も)された大人気ブルトレ。
「カシオペア」は、その「北斗星」人気を受けて新車を製造し
東京(上野駅)から北海道への旅を優雅に楽しもうと言うコンセプトで
設定されたものの、あまりの豪華さに1編成分の車両しか用意できず
(つまり上下同時の運行が出来ず、1日目に下り→2日目に上りで動かす)
登場当初から臨時列車扱いだったという曰くつきの列車だった。
しかし「北斗星」は全車両が以前から運行されていた車両の改造車だったので
次第に老朽化が激しくなり1往復の運行に減便、更に2015年4月以降は
「カシオペア」と同じように“2日で1往復”という臨時列車になってしまい
とうとう今月を限りに運行終了、「カシオペア」も同様となった訳である。
北斗星
寝台特急「北斗星」

使用車両は24系25形客車。
上野を出発し、青函トンネルを抜け
札幌まで走る寝台特急。青い車体に
ゴールドの帯は、夜行列車の花形。
いちおう、JRは車齢の限界を理由に列車の廃止を決定している。確かに、
「北斗星」は上記の通りであり、車両はいずれも40年近くを経年したので
その理由に間違いはない。しかし「カシオペア」はまだその半分以下しか
使用されていない新造車なので、これは正しい理由とは言えない。だた、
実際には「カシオペア」に使われているE26系車両は水まわりが全然ダメで
整備に多大なる労力を割いているらしい。つまり“車齢”云々と言うよりも
当初から“欠陥車両”だったと言うべきなのが実情で、JRがいずれにしても
早く廃止したいというのは真実だろう。だが、車両の耐久性が問題だとしても
本当にそれだけが理由なのだとしたら、「カシオペア」登場時のように
新しい車両を用意すれば良いだけの話である。或いは「北斗星」同様に
以前からある車両を改造して運用する方法だってあるだろう。要するに
これらの列車を廃止する『本当の理由』が、2016年春に予定されている
北海道新幹線開業に伴い、青函トンネルに在来線特急を運行させ続けるのが
面倒くさい、という1点にあるのは鉄道ファンが見透かしている通りだ。
事実、あれほどの人気を誇った「トワイライトエクスプレス」は既に前年
一足早く廃止されてしまっている。
カシオペア

臨時寝台特急「カシオペア」

使用車両はE26系客車。
「北斗星」と同じコースを走る。
シルバーメタリックの車体には
レインボー塗装の帯が入り
いわゆる「ブルートレイン」ではないが
豪華列車として非常に目立つ存在。
整備新幹線に関連する法制により、新幹線と重複する区間の在来線は
JRの運用から切り離すようになっている。しかし、こうした区間を
即時廃線にすると地域の交通網が破綻する為、大概は地元自治体が
中心になり第3セクター(以下、3セクと記載)の新鉄道会社が継承する
慣例になっている。だがJRの特急列車は概ね長距離の運行区間で
設定されるので、自ら手放しておきながらこのような3セク区間を
通過せざるを得ない。JRの列車が3セク区間を通る時には通行料を
支払わねばならず(これが3セク会社の大きな収入源になる)これも
JRが特急列車を極力廃止したい大きな理由になっている。これは
寝台特急に限った話ではなく昼行特急も同じ条件である為、現在は
JRが軒並み特急列車を廃止し「長距離は新幹線を使え」と言わんばかりの
運行形態を取るようになってしまっている。

さらに言えば、“特急”つまり“特別急行”という存在に対し
一般の“急行列車”はほぼ全滅状態。JRで唯一残されていた急行「はまなす」も
これまた青函トンネルを抜ける寝台列車であるが、同様に廃止となる公算。
「急行」が無いのに格上の「“特別”急行」だけがあるとはこれ如何に?
その特急も上記の通り減少傾向だし、結局のところ最終的にJRとしては
「新幹線以外は普通列車のみ」としたい所なのであろうか?



国鉄時代から遡ってみれば、往々にして“新幹線”と“寝台特急”は
相容れない宿命の下にあった訳だ。ブルトレの元祖である20系特急が
初めて登場したのが昭和33年、まだ新幹線が計画段階に過ぎない時代。
「移動手段」である列車を夜間のうちに乗車してできるだけ旅の時間を
有効活用する、そしてその乗車時間を可能な限り快適に過ごす為に
寝台列車が誕生する、という成り行きだった訳だ。ところが“超特急”の
新幹線が生まれた事で「移動時間」そのものが削減できるようになり
寝台列車の必要性が薄まってしまった。況してや飛行機も手軽に利用できる
時代となった事で、新幹線も安泰の存在ではなくなり、寝台列車は完全に
不要な存在と見做されるようになってしまった。この理論で行けば
確かにJRが寝台車を廃止したいという結論になるのは納得である。
はやぶさ/富士
寝台特急「はやぶさ/富士」

東京発着で最後まで残ったブルトレ。
もともと「はやぶさ」と「富士」は
別々の列車(行先が違う)だったが
需要減やダイヤ調整に対する
苦肉の策で併結列車として
動かすようになり、更にそれでも
対応しきれず2009年3月に廃止。
だが、寝台列車のダイヤ編成は時代時代に応じてかなりの工夫を凝らしてきた。
昭和40年代、新大阪から九州へ向かう寝台特急は何種類も発せられている。
これは東京発の新幹線(当時は新大阪や岡山までしか開業していなかった)から
乗り継いで九州へ翌日着ける時間設定の列車だった訳だ。
また、東京を深夜0時直前に発車し翌朝一番で大阪へ到着する
寝台急行「銀河」のような列車もあった。こちらは新幹線の終電後に
東京を発ち、翌日始発の新幹線より早く大阪に着けるダイヤで
考えてみれば最も効率的な運行形態だった筈である。新大阪〜九州の
寝台特急とは対極で、「新幹線の隙間を突く」列車と言えよう。
現在、この手の移動手段を消化しているのが深夜バスであるものの
「ベッドで寝られる」という付加価値を考えれば、今でも「銀河」の
潜在的需要はあると思えるのだが、JRは面倒がって
こうした列車を省みる事はない。はたまた、「トワイライト〜」と同じく
大阪から日本海沿いを打通する寝台特急「日本海」「つるぎ」など
新幹線とは縁のない地域を運行する列車も乗車率は高かった。上野発でも
「北斗星」を除けば最後まで残ったブルトレが秋田経由の「あけぼの」だった訳で
色々と考えてみれば「新幹線では賄えない需要」に対処できるのが
寝台列車だった筈なのだが…?
あけぼの

寝台特急「あけぼの」

最終時の使用車両は24形客車。
上野から日本海側に沿って
青森まで走った列車。東北本線の
特急は北海道連絡を念頭に置く
ダイヤだった為、盛衰も激しかったが
それを期待されない経路だった事が
逆に幸いして、ブルトレ最末期まで
運行が確保されていた特急。
ベッドや寝具の用意、食堂車の営業、長距離運行の交代要員、他の列車との
兼ね合いなど、昔から寝台車の運用は何かと手間暇がかかっていた。
“車掌補”という職業が廃止された時は、良くも悪くも物議をかもした。
だからと言って「初めに廃止ありき」という現在のスタンスは
何か見落としている点があるような気がする。昭和40年代〜50年代の
知恵と工夫は、総て無駄だったという事になってしまいそうだ。

※車掌補
登場当初のブルートレインは、始発駅を出発した後の時間帯に
寝台のセットを行うようになっていた。つまりベッドメイクや
浴衣の取り揃えという作業を行う乗務員が必要だったのだが
その専門要員として乗車したのが「車掌補」である。車掌補は
多くの人員が用意されており、人件費が嵩む要因になった反面
車内の治安維持にも一役買っていた為、国鉄の合理化によって
廃止された際、安全軽視であるとの批判も多かった。





で、この次に「昭和の教訓」を省みるべき
もう一つの話題を書き連ねようと思ったのだが
余りに長くなってしまったので、やっぱり全編カット(爆)


長くてもつまらなくても良いという方だけこちらからどうぞw



(中略した話)…は難しい話ではありますが、全滅してしまうブルトレは
まだ救済する途があるような気がする(おぉ、そこに戻るのか!)
昭和の知恵を借りるなら、新幹線と競合しないダイヤを組めば良い筈。
そして3セク路線に入れたくないという条件を付けたとしても
まだ方法がある筈だ。例えば上記した「銀河」の復活。これは今度
高速バスとの競争という問題が発生する訳だが、極端な話
「運賃+急行料金」だけで乗れるようにしてみるのはどうだろう?
つまり寝台料金は取らない“格安チケット”にしてしまうのだ。
寝台料金の減額はJR化後の一時期、試験的に採用されていた事もあるので
不可能ではない。夜間の列車なのだから、寝台であるのは当たり前。
当たり前の制度に、料金を課す必要はないのである。もっと言ってしまえば
他の列車が運行しない時間帯を走る夜行列車に限り、急行(特急)料金も
取らない(各駅停車する必要がないだけの普通列車という感覚)で、単純に
「夜走るだけの列車」という料金にするのだ。高速バスと同等の運賃で
「ベッドで寝られる」なら顧客の奪還を見込めるだろう。寝台車という
“特別な存在”でありながら特別扱いをしない“コペルニクス的転回”である。
「銀河」は東京〜大阪間の運行だが、同じように
“新幹線より遅く出て、新幹線より早く着く”区間ならば
他にも使える手段だろうから、例えば上野〜盛岡間を往復していた
「北星(「北斗星」ではない)」の復活とかも可能。「北星」の場合、
いっそのこと花巻発着にして、観光列車として走っている花巻〜釜石間の
「SL銀河」に接続するようにしてしまうのも一興。上野駅からブルートレインに乗り
花巻に行き、そこからはSLを楽しみながら釜石へ。釜石には新たな世界遺産
“橋野鉄鉱山・高炉跡”も誕生した事だし、三陸の海を楽しむ観光需要を
満たしつつ、東日本大震災の被災地復興を一助する事にもなろう。

観光列車として考えるならば、今まで走っていなかった路線に
ブルートレインを投入する方法もあろう。例えば、新宿を発し中央本線から
太多線を経て飛騨の観光都市・高山へ至るルートなんかどうだろうか?
「北斗星」「カシオペア」廃止後も生き残る寝台特急「サンライズ出雲」は
“縁結び観光”として出雲大社参りの客を乗せて大盛況のようだが
関西圏から出雲へ至る列車「だいせん」を復活させるのもアリかもしれない。
かつてのブルトレ「出雲」が電車特急「サンライズ出雲」になった事で
山陰本線は通らなくなってしまったが、関西発はむしろ山陰廻りで運行すれば
差別化が可能。それから、出雲大社に対抗して伊勢参りの客を集め
東京〜鳥羽なんていう短距離寝台特急を考えるのもどうだろうか?
近鉄特急が豪華車両の「しまかぜ」を投入して話題の路線に
JRもブルトレを運行させれば、かなりの話題になるだろう。何より
伊勢志摩サミットも行われる予定の注目地域。ブルトレ飽和の時代、
東京〜紀伊勝浦を走った「紀伊」は短命の失敗作だったようだが
伊勢までにしておけば、無駄の無い効率的な観光集客が見込めるかと。
サンライズ出雲

寝台特急「サンライズ出雲/瀬戸」

電車寝台特急、285系車両を使用。
瀬戸大橋を渡り四国へ至る「瀬戸」と
出雲大社への観光客で賑わう「出雲」の
併結。切符販売率は99%と言われ
圧倒的な人気を誇る。という事はやはり
「夜行列車に需要が無い」訳が無いのだ。
設備を充実させた新鋭車両や
適切な運行区間・ダイヤを確保すれば
必ず乗客はついてくる。寝台列車は
「売れない」のではなく
「売らない」から減退したのである。





JR九州が「ななつ星 in 九州」を大成功させて以来、寝台車両というのは
“超豪華クルーズトレイン”として動かすものだという革命が起き
JR西日本は「トワイライト〜」の列車名を新たにそうしたクルーズ列車で
復活させるとの事。JR東日本もまた「四季島」なる列車を新たに用意し
“百万円単位の旅”で儲けようとの魂胆…。まぁ、それはそれで結構だし
新たな列車が誕生したり、新たな旅のスタイルが完成するのは喜ばしいが
一般庶民が“いつもとちょっと違う旅”を楽しむのは無理な御時世に
なってきてしまっている。寝台列車、特にブルートレインというのは
そうした“ちょっとだけ非日常”という空間を演出してくれる最たる物なのに
今やそれが叶わぬ時代になってしまったのは、実に残念だ。
SL“パレオエクスプレス”

SL“パレオエクスプレス”

昭和30〜40年代、あれほど
煙害で嫌われたSLですら
今や貴重な観光資源であり
鉄道文化財として認められる。
ブルートレインも
“乱発”する復活ではなく
“プレミア性”を持たせて
観光客の心を掴めば、必ずや
鉄道マニアだけのものでなく
一般の旅行客にも大ヒットする
「看板商品」になると思うのだが?
明治から高度成長期まで日本の鉄道文化を支えたSLが瞬く間に廃止されるも
むしろそれが文化遺産として日の目を見るようになり、今では全国各地で
復活運転が行われるようになった。今度は、高度成長期から21世紀まで
日本の鉄道完成期を象徴してきたブルートレインを、同じく文化遺産として
再評価すべき時期に来ていると確信するのはオイラだけであろうか?
SLの維持運営に比べれば、寝台車の運行なんてまだ楽な筈だ。
20系客車に始まり、14系→24系→24系25形→14系15形そしてE26系へと
進化していた寝台客車の系譜を途絶えさせず、願わくば新たに
28系(仮称)車両とかを、もちろん青地に白(銀色)のラインを入れた塗装で
造って頂けないものか…と、密かに期待するのみでございます m(_ _)m

#「北星」の「SL銀河」接続運行とか、良いアイデアだと思うんだがなぁ…(ボソッ)

文化の継承も、平和国家の維持も、過去の歴史の中に
忘れてはならない大きな大きな教訓や警鐘が残っているのである。



※補足
脱稿した後、微妙に状況の変化もあって
カシオペアはとりあえず2016年2月末までの運行は行われる模様。
その後のE26系をどのように運用するかも再考中のようだ。
とは言え、青函トンネルの往来を新幹線と貨物列車以外に
執り行う可能性はかなり少ない上に、カシオペアもパックツアー販売の
クルーズ列車として運用するらしく、要するに誰もが気軽に
切符を取れる寝台列車というのはサンライズだけになる状況に変わりは無い。





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