武田家軍事ネットワークの拠点■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
武田信玄が整備した有名な軍用道「棒道」の起点となっている城。とは言え、城の創建は棒道の整備より
遥か昔に遡る。平安時代末期、後三年の役の功により甲斐源氏の始祖・新羅三郎義光が甲斐守となって
館を構えたとされる。この説に確証はないが、周囲を眺望できる断崖と言う立地にあれば、古い時代から
城砦が構えられていたのは間違いないだろう。■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
戦国期になると、武田信玄が甲斐から信濃へと侵攻する際の軍事拠点として多用される事となる。■■■
山城としては比較的大規模な縄張りを有するようになり「古城」或いは「大城」と呼ばれる遺構を中心にし
東に北城、湯沢の西に南城の3箇所からなる連郭式城郭として整備された。城山の周囲は全体的に隔絶
した絶壁となっているため視界も良く開けており、狼煙台としての機能も併せ持っている。城の北向きに
狼煙台が置かれ、獅子吼(ししく)城(下記)への連絡が行われていた。これも有名な話だが、狼煙の伝達
速度は時速に換算して50km/h程度あったと言い、信玄が整備した狼煙中継路は信州からの軍事情報を
いち早く甲府へと伝える事ができた。その中継路の一端を担うのが、ここ若神子(わかみこ)城だった。■
よって、この城は甲府から信濃・佐久口への軍事・情報・物資の集積拠点となり棒道の起点になったのだ。
武田軍が信州方面へ出陣する際、甲府を発った後に若神子城で陣立を行い進軍するのが通例となり、
1542年(天文11年)の伊那・高遠攻めや、翌1543年(天文12年)佐久・大井貞清攻め、1550年(天文19年)
林城(長野県松本市)攻め及び対村上義清戦、1551年(天文20年)戸石城(長野県上田市)の攻略・佐久
平定戦、1553年(天文22年)の塩田城(同じく上田市)攻撃などで若神子城が経由されている。■■■■■
後北条氏が改修?■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
時代が下り、1582年(天正10年)になると甲斐国は激変を迎える。武田氏は織田信長により滅ぼされ、その
信長もまた本能寺で横死した為、甲信地方は治める者が居なくなる空白地になってしまったのだ。この隙を
衝き、駿遠に勢力を拡大していた徳川家康と関東の覇者・北条左京大夫氏直が甲信の領有を図って対立。
家康は新府城(山梨県韮崎市)に本陣を置き大軍を展開、一方で北条軍はこの若神子城に拠点を構えた。
地誌「甲斐国志」によれば「若神子、多麻庄ニ属セリ。天正壬午八月ヨリ北条氏直本陣ヲ居キシ処…」とある。
徳川と北条が睨み合ったこの対立を天正壬午の乱と呼び、80日間に及ぶが、その折に若神子城の防備を
増強すべく北条軍は城内に新たな空堀を掘削する。この堀は薬研堀(やげんぼり)の断面で、後北条流の
築城術に特徴的な直線構造だ。しかし構築途中で両軍に和議が成立。甲斐の領有権は家康の手に渡り、
後北条軍は若神子城を退去、薬研堀は完成せぬまま放棄されたのでござった。■■■■■■■■■■■
この後、若神子城は廃城となった為(薬研堀を含め)城跡は風化。現在は北杜市(旧須玉町)ふるさと公園と
なっており、発掘なども行われたが大がかりな遺構の復元などは行われておらず、「風化したままの保全」と
いった感じになってござる。そうした中、北条氏の薬研堀部分には解説の目印が置かれ、検出された遺構が
幅1m・深さ1.2m・長さ10m程度の規模だった事が分かるようになっている。また、この薬研堀には(後北条流
築城術に顕著な)畝の痕跡?と思われる隆起部分が見て取れるのが興味深い。この他、発掘調査に拠れば
主郭部東端から厚く焼土が堆積した跡が発見され、南端からは見張台跡と思われる柱穴も検出されている。
ともあれ、明瞭な復元こそされていないものの、城域は全体的に土塁や堀、曲輪の残骸と思われる起伏が
見て取れ「想像力に任せた」見学をする事になる。■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
なお、公園整備に伴って狼煙台も再現されたが、これは江戸時代の絵図面を元にした「つるべ式狼煙台」と
呼ばれるもので(写真)戦国時代に武田氏が用いた物に合致するかは不明だ。しかも経年劣化により腐食し
現在、この狼煙台は撤去されてしまった。■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
国道141号線「西川橋西詰」交差点から西に向かい、山梨県道28号線のつづら折を登った先に城跡がある。
旧須玉町域内には1875年(明治8年)に建てられた擬洋風建築の旧津金学校(現在は須玉歴史資料館)や
獅子吼城があり、何かと歴史に関連した散策が楽しめる場所だ。なお、若神子城址は1988年(昭和63年)
3月18日に須玉町(当時)史跡に指定されている。■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
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