櫓の特徴
櫓は貯蔵庫であり、戦時の拠点である。
戦において敵との攻防の舞台となるため
櫓には強固な構造が必要となる。
櫓の特徴について以下に記述する。
櫓の屋根と破風
瓦葺家屋の屋根は主に3種類の形態に分けられる。
切妻(きりづま)造・寄棟(よせむね)造・入母屋(いりもや)造である。
切妻造は屋根の妻を切り落とした形式、
寄棟造は屋根の頂部から四方へ棟を広げた形式、
入母屋造は寄棟造の上部を切妻造とした形式である。
城郭の櫓屋根は切妻造・入母屋造が多く用いられるが
小諸城櫓門のように寄棟造の例も若干ある。
左:切妻造 中:寄棟造 右:入母屋造
三重櫓や天守のような大規模建築物の発展によって
「破風(はふ)」と呼ばれる構造物が作られるようになる。
破風は本来建築技術的に成立したものだが
次第に城郭の威容を整える装飾として体系化された。
まず、最も基本的な破風が「入母屋破風」であろう。
大型の櫓は当初「櫓の上に櫓を造る」という工法で設計されたため
下層の櫓の入母屋屋根が上層の櫓に食い込む形式となった。
ここで残された入母屋が入母屋破風である。
色つきの部分が入母屋破風
建築技術の向上により「櫓+櫓」ではなく
当初から大型の櫓が建造できるようになると
入母屋破風はその必要性を失ったが
櫓の威厳を正す装飾として破風を取り付ける事が行われた。
入母屋風の小屋根を付けたものが「千鳥破風」であり
切妻風の小屋根を付けたものが「切妻破風」である。
左:千鳥破風 右:切妻破風
櫓を視覚的に大きく見せる工夫として
破風を二つ並べる手法も多く取られた。
このように二つ連なる破風を「比翼破風」という。
入母屋破風が二つで「比翼入母屋破風」
千鳥破風が二つで「比翼千鳥破風」である。
左:比翼入母屋破風 右:比翼千鳥破風
破風が装飾手段としての意味合いを増し
城郭が政庁・御殿としての性格を持つと
より一層の変化を持たせた破風が作られた。
しなやかな曲線で優美さを醸し出した「唐(から)破風」である。
唐破風は庇屋根に取り付けた「軒唐破風」の場合もある。
左:唐破風 右:軒唐破風
千鳥破風や唐破風は櫓の構造的に必要なものではなく
装飾としての意匠であるため「飾り破風」と呼ばれる。
城郭の櫓や天守にはさまざまな破風が用いられ
特色ある容姿を見せているが、
破風を一切持たない質素な櫓・天守もある。

姫路城(兵庫県)天守の破風
1:入母屋破風
2:千鳥破風
3:比翼入母屋破風
4:軒唐破風
鯱(しゃち)
鯱は頭が虎・胴体が魚とされる空想上の動物である。
火災の時は水を吐くといわれ、火除けのまじないとして崇められてきた。
落雷や火攻めによる火災が起き易い櫓や天守には
屋根の頂部に鯱鉾を置くことが慣習とされた。
天守が城主の権威を示すものとなると
鯱鉾に金の装飾をして目立たせるようになった。
姫路城(兵庫県)天守の鯱鉾
窓
櫓にも狭間や石落しの仕掛けが備えられており
寄せてくる敵へ攻撃を与えるようになっているが
通気・採光や広い視野を得るには窓も必要となる。
特に地階をもつ櫓の場合、採光専用の窓が備えられる。
名古屋城(愛知県)天守の地階用天窓(中央下)
通常、櫓の窓は一般の木造建築と同様の格子窓・突上げ窓が使われたが
城郭ならではの構造として格子に鉄製のものを用いたり
大型の狭間を並べて窓とした例がある。
また、意匠に配慮した独特の形状として
「華頭(かとう)窓」と呼ばれるものがある。
「華頭」は「火灯」「花燈」などの字を当てることもあり
字の通り、灯火や花弁のような形の窓枠で
装飾を凝らした飾り窓の事である。
華頭窓
階段の妙
二階建て以上の櫓の場合、内部には必ず階段がある。
櫓が戦時の拠点となる以上、階段にも敵を防ぐ工夫が施されている。
何と言っても櫓の階段は傾斜がきつい。
階段というよりも梯子といった感じですらある。
万が一、敵が櫓に突入したとしても
上層へ上がることを阻止するためにこの形式が採られている。
階段の昇降に齟齬をきたすようにして
上階から敵を攻撃し叩き落すようになっているのである。
一段あたりの段差も高いものとし、
また、その高さも一定したものにはなっていない。
これらの構造も階段を昇りにくくして
敵兵の歩調を乱すために作られている。

丸亀城(香川県)天守内部の階段
60度近い急傾斜の階段
昇降には足元だけでなく頭上にも注意が必要