天守の形式
城の象徴であり、戦時の司令塔である天守は
城郭の中心である本丸に築かれている。
他のさまざまな建築物と列を成し
その城の必要性に応じた立地で建てられているのだ。
縄張りからみた天守形態の説明を以下に記載する。
なお、解説図は各形態の一例であり
小天守や付櫓の向き・規模は城郭によって異なる事に注意されたい。
独立式天守
天守閣が一棟、他のどの建築物(塀は除く)とも密接せず
単独で作られた形態である。
本丸の中心に単立する場合と
塀で囲う本丸の端部に設置される場合がある。
★主な独立式天守…江戸城(東京都)・丸岡城(福井県)・高松城(香川県)など
独立式天守
複合式天守
天守閣に付櫓などの建築物が付随する形式である。
こうした付櫓が天守の玄関口となったり、
天守防衛の援護要塞となる事がある。
また、付櫓はかならずしも一つとは限らない。
★主な複合式天守…大垣城(岐阜県)・岡山城(岡山県)・松江城(島根県)など
複合式天守
連結式天守
大天守と小天守(またはそれに類する大櫓)を建て、
両者の間を橋台や渡櫓などで繋いだ形式。
大小二つの天守を作るためかなり大型の構造となる。
二つ以上の小天守を連結した場合、複連結式と称される。
★主な連結式天守…名古屋城(愛知県)・熊本城(熊本県)など
★主な複連結式天守…福知山城(京都府)・広島城(広島県)・大洲城(愛媛県)など
連結式天守
複合連結式天守
付櫓が付随した大天守に
小天守を連結した形式の天守群。
見る角度によって表情を変える秀麗な天守である。
★主な複合連結式天守…松本城(長野県)・岡崎城(愛知県)など
複合連結式天守
連立式天守
大天守と三基の小天守を四方に配置し
この四者を橋台・渡櫓などで繋ぐ形式。
本丸の中に天守群で作られた小曲輪ができるため
この曲輪を特に「天守曲輪」と呼ぶことがある。
天守防衛構想の究極形態とも言える天守群を形成する。
★主な連立式天守…姫路城(兵庫県)・伊予松山城(愛媛県)など
連立式天守

独立式天守の例:丸岡城(福井県)
本丸中央に単独で建つ小柄な天守閣

複合式天守の例:岡山城(岡山県)
左側の切妻破風の建物が天守付随の塩櫓

連結式天守の例:名古屋城(愛知県)
小天守(左)と大天守(右)を橋台で連結

複合連結式天守の例:松本城(長野県)
赤い高欄の月見櫓と辰巳附櫓(左)を付した大天守(中央)に
北側の小天守(右)を渡櫓で連結した天守閣群

連立式天守の例:姫路城(兵庫県)
乾小天守(手前左、工事中)・西小天守(手前中央)に
大天守(右奥)が連なって天守閣群を構成
大天守の向こうには東小天守がある
現存天守一覧
天守代用の三重櫓の場合を除き、
現存する天守閣は全国に12ある。
以下に12天守閣の情報を記載する。
城郭名 |
所在地 |
築造年 |
階数 |
大天守の構造 |
形式 |
文化財指定内容 |
弘前城 |
青森県弘前市 |
1810年(文化7年) |
三重三階 |
層塔型 |
独立式 |
国指定重要文化財 |
丸岡城 |
福井県坂井郡丸岡町 |
天正年間? |
二重三階 |
前期望楼型 |
独立式 |
国指定重要文化財 |
松本城 |
長野県松本市 |
1592年(文禄元年)頃 |
五重六階 |
望楼型〜層塔型の過渡型 |
複合連結式 |
国宝 |
犬山城 |
愛知県犬山市 |
慶長年間? |
三重四階+地階 |
前期望楼型 |
複合式 |
国宝 |
彦根城 |
滋賀県彦根市 |
1606年(慶長11年) |
三重三階 |
望楼型〜層塔型の過渡型 |
複合式 |
国宝 |
姫路城 |
兵庫県姫路市 |
1608年(慶長13年) |
五重六階+地階 |
後期望楼型 |
連立式 |
国宝・世界文化遺産 |
松江城 |
島根県松江市 |
1611年(慶長16年) |
四重五階+地階 |
後期望楼型 |
複合式 |
国宝 |
備中松山城 |
岡山県高梁市 |
天和年間 |
二重二階 |
(層塔型) |
複合式 |
国指定重要文化財 |
丸亀城 |
香川県丸亀市 |
1643年(寛永20年) |
三重三階 |
層塔型 |
独立式 |
国指定重要文化財 |
伊予松山城 |
愛媛県松山市 |
1854年(安政元年) |
三重三階+地階 |
層塔型 |
連立式 |
国指定重要文化財 |
宇和島城 |
愛媛県宇和島市 |
1665年(寛文5年) |
三重三階 |
層塔型 |
複合式 |
国指定重要文化財 |
高知城 |
高知県高知市 |
1747年(延亨4年) |
四重六階 |
後期望楼型 |
独立式 |
国指定重要文化財 |
なお、廃藩置県による廃城令を免れて昭和まで残ったものの
惜しくも戦災などで滅失した天守がいくつかあった。
これらはいずれも旧国宝に指定されていたものである。
以下に一覧を記載する。
城郭名 |
所在地 |
築造年 |
階数 |
大天守の構造 |
形式 |
滅失年月日 |
滅失理由 |
松前城 |
北海道松前郡松前町 |
1854年(安政元年) |
三重三階 |
層塔型 |
独立式 |
1949.6.24 |
町役場火災で類焼 |
大垣城 |
岐阜県大垣市 |
1620年(元和6年) |
四重四階 |
望楼型〜層塔型の過渡型 |
複合式 |
1945.7.29 |
大垣大空襲 |
名古屋城 |
愛知県名古屋市中区 |
1612年(慶長17年) |
五重五階+地階 |
層塔型 |
連結式 |
1945.5.14 |
名古屋大空襲 |
和歌山城 |
和歌山県和歌山市 |
1850年(嘉永3年) |
三重三階 |
層塔型 |
連立式類型 |
1945.7.9 |
和歌山空襲 |
岡山城 |
岡山県岡山市 |
1597年(慶長2年) |
五重六階 |
後期望楼型 |
複合式 |
1945.6.29 |
岡山空襲 |
福山城 |
広島県福山市 |
1622年(元和8年) |
五重五階+地階 |
層塔型 |
連立式類型 |
1945.8.8 |
福山空襲 |
広島城 |
広島県広島市中区 |
文禄年間 |
五重五階 |
後期望楼型 |
複連結式 |
1945.8.6 |
原爆による被災 |
天守代用の三重櫓 |
水戸城 |
茨城県水戸市 |
1766年(明和3年) |
三重五階 |
層塔型 |
独立式 |
1945.8.2 |
水戸空襲 |