南部氏分流・久慈氏■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
岩手県北部、久慈市の市街地から久慈川沿いを遡った場所に位置する山城。久慈市立大川目小学校の
前から北西へと延びる道を直進し、時宗遍照山海徳院慈光寺の東側にある小山が城址でござる。■■■
別名で新町館・八日館（大川目八日館）とも。言わずもがな、久慈氏歴代の居城だ。■■■■■■■■■
久慈氏は南部氏庶流であり、南部氏初代・南部三郎光行（みつゆき）の4男（6男とも）・七戸太郎三郎朝清
（ともきよ）を祖とする。朝清は1199年（正治元年）に七戸領（青森県上北郡七戸町）を得、後に久慈領も
領有しており、このうち七戸は七戸三郎光継の系譜が領し、久慈は久慈太郎光興（共に朝清の子）後嗣が
治めている。当然、この光興以降の代々が久慈氏なのだが、光興から数えて11代目の修理助治政には
男子がなく、時の南部宗家当主・大膳大夫時政の子である備前守信実を娘婿に取り家督を継がせ申した。
「摂待久慈家譜」などの史料に拠れば、この信実が大川目八日館すなわち久慈城に居住したとある。彼が
久慈に入ったのが文明年間（1469年〜1487年）の頃とされているので、恐らく築城もその頃と推測されるが
或いはそれ以前から城は存在し、そこに信実が入ったと言う可能性もあり判然とはしない。ともあれ、信実
以降は摂津守信政―備前守政継―摂津守治継―備前守治義（信長）―三河守信義―備前守直治と代を
重ねた。しかし18代・直治にも男子が無く、南部一族の有力者である九戸右京信仲の3男・中務少輔政則を
娘婿に迎えている。この政則の兄、即ち信仲の長男が勇猛果敢の剛将として知られる九戸左近将監政実
（まさざね）であるが、政実は1591年（天正19年）南部宗家の家督争いから南部大膳大夫信直と戦端を開く。
当然、実兄を助くべく政則は九戸軍に加担し義父の直治もそれに加わる。しかし、天下人の豊臣秀吉から
公認された大名である南部信直に敵対する事は、取りも直さず豊臣政権への反逆を意味した。■■■■
九戸城（岩手県二戸市）に籠城した九戸党は精強を誇ったものの、豊臣方討伐軍は謀略でこれを切り崩し
囚われの身となった直治・正則父子は陸奥国栗原郡三迫岩ヶ崎（宮城県栗原市）で処刑され申した。■■
これによって久慈氏嫡流は断絶、久慈城は信直直轄の城となり、代官として久慈修理治興が入った。この
治興なる人物、三河守信義の次子・久慈出羽守治光を祖として分家になった摂待（せつたい）氏の一族と
言われるが、長く続かず程なく廃城となり破却されている。豊臣政権の破城命令に基づくもので、1592年
（天正20年）6月11日付の目録「南部大膳大夫分国之内諸城破却共書上」の中には「糠部郡之内　久慈　
山城　破　信直抱　代官　久慈修理」と記録されている。■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

勝ち残った津軽為信と滅んだ久慈直治■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
ところで久慈氏と言えば、後に津軽地方の近世大名となる津軽為信の出自がこの久慈氏と言われている。
右京大夫為信の父祖は大浦氏を名乗っており、この大浦氏が久慈氏からの分流だと考えられている一方、
為信がそもそも備前守治義の次子・十郎で、それが津軽に入ったとする説もあり諸説入り乱れている。■
いずれにせよ、津軽家と久慈家は因縁浅からぬ関係と言う事になろうが、久慈家が南部宗家に敗れた後
消え去ったのに対し、その南部家を手玉に取って津軽家が大名に成り上がったというのは対照的だ。■■
城山は東西に細長い三日月状の面積を有し、その山頂部を主郭として啓開する。下段に帯曲輪のような
二郭が取り巻き、更に三郭が同様に下段を周回している。他方、主郭の北西側では主山塊への尾根が
繋がるようになっており、ここが四郭（稲荷曲輪）として搦手側の守りを為す。主郭と四郭の間、それから
四郭の北端部には堀切が穿たれて敵兵の侵入を遮断するようになっていた。主郭の標高は海抜86mで、
山麓との比高は35m程。城山の東西には切金川（久慈川支流）の沢が入り込み、水利も豊富な要害。■■
城山は東西300m×南北200mほどの大きさ。一方その西側山麓、現状において慈光寺の境内となっている
敷地には城主の居館があったと言い、摂待氏の墓碑などが残る。最後の城主である久慈直治の命日、
9月20日には慈光寺で慰霊法要が営まれるそうである。他方、城山の南麓には馬場の平場があった。■■
城域は1973年（昭和48年）10月8日に久慈市指定史跡とされている。だが、史跡指定の割には何の整備も
されておらず荒れ放題。申し訳程度に社や標柱が立っているだけである。■■■■■■■■■■■■■
せめてもう少し手入れをして欲しいものでござるのぉ…　（ＴへＴ)■■■■■■■■■■■■■■■■■■